アーキテクト工房 Pure
家づくりをするうえで
快適な室内環境を実現するために
性能面が少しずつ意識されつつある日本の住宅業界。
その家の性能の一つに
『気密性能』があります。
家を快適にするには、
気密性能が必要です。高気密がいい。と
検索すると出てきますが
実際どのくらいの気密性能が必要なのか?
ということが
個人的に気になり
気密性能をどこまで追求すればいいのか
調べることにしました。
CONTENTS
そもそもなぜ気密性能が必要になったかは
前回のコラムで書かせていただいたので
ぜひご覧いただければと思います!
高断熱・高気密の「気密」ってなに? それって家づくりに必要なの?
気密はお家のいらないすき間を無くすこと。
いらないすき間がなくなると
自然換気というものが行われにくくなり
計画的に換気をしなければ
室内の空気の質が悪くなってしまいます。
流れを大まかにまとめると
気密施工をする
↓
いらないすき間がなくなる
↓
自然に換気がされにくくなる👈
↓
計画換気が必要となる
(計画換気が出来るようになる)
ということになります。
どのくらい
いらないすき間をなくすと
自然に換気が行われなくなるのか。を
気密性能と換気の関係性として
今回は追求していきます。
前の項目で
換気について出てきましたが
換気とは室内を快適な環境に良質に保つために行われるものです。
人が呼吸によって排出する二酸化炭素や水蒸気、そして生活で発生するハウスダストなどで汚れた室内の空気を外の新鮮な空気と入れ替えることを目的としています。
換気の方式には
大きく分けて
『自然換気』と『機械換気』の
2つになります。
今回、話の中で出てくるのが
前者の『自然換気』。
この換気方式は、
その名の通り
自然の力によって空気が入れ替わるというものです。
自然の力というと
風と室内外の温度差の2つがあり、
環境の変化によって行われる換気になります。
今回、関係性を知る手がかりとしてある論文を引用させていただきたいと思います。
・日本建築学会計画系論文集
第512号 39-44 1998年10月
・表題:『住宅における換気量の簡易予測法』
・論文内容:
換気と気密性能、気象状況などの関係を予測した論文
モデル住宅を作成し、外部環境(風速、温度差)を変化させた場合を組み合わせて約20,000ケースにおいて換気の計算を行う。
・モデルの条件
2階建て 幅10m×奥行き7m×最高高さ7m
床面積 :140m²
容積 :400m³
室内温度:20℃
間仕切り扉は開きで家全体を単室と考える。
隙間や換気開口面積を合わせて、気密性能としている。
(※窓や玄関などの開口部は含めていない、また換気方式も自然換気と機械換気で場合分け。)
・外部環境の条件
外気温度
20,15,10,5,0,-5,-10℃ の7段階
外部風速
無風から8m/s の間,風向きは北西方向
以上が実験に用いられた条件になります。
約20年前には、気密性能と換気の研究がされており
その関係性の結果もでているということに。
そしてここで重要なのが、自然換気による
いらないすき間からのみ流入する換気量の実験も行われているところです。
このことで、実験によって求められる換気量とは
自然換気によって
お家から漏れ出している空気の量を知れるということになります。
これを漏気と呼ばれます。
ここからグラフを使って
気密性能と換気(漏気)、気象状況(風・温度差)の関係性を考察していきます。
グラフがこちらになります。
一見難しそうに見えますが、一つ一つ読み解くことで
関係性を知ることが出来ます。
まず、左側のグラフについてです。
横軸が相当隙間面積 C値ということで気密性能を表しています。
縦軸が換気回数で空気の換気量を表しています。
単位の回/hというのは、1時間あたりに部屋空間の量が何回分入れ替わったのかという指標です。
空間の量というのは容積のことで、このモデルの場合400m³となっているので
0.5回/hという換気回数だとすると2時間に1回(400m³)の空気が出入りしているということになります。
続いて、右側のグラフについてです。
横軸が外部風速(m/s)で風の強さを表しています。
横軸のΔTは温度差で、モデル住宅の室温が20℃で一定と設定されていますので、20℃からの温度差になります。なので、温度差30℃ということは外気温が-10℃の時を指します。
そしてもう一つの要素として、建設地の周囲環境も大きく分けて3つに分類されています。
周囲の環境によって最も影響されるのが、風になります。
隣に建物があると、風の妨げになるのでそれだけ影響が受けにくいとされてます。
そのため、このグラフだけでも建物が密集していれば外的環境による影響は受けにくいということが読み取れます。
ここからは2つのグラフを読み取っていきます。
換気回数を知りたい場合、
それ以外の4つ条件が必要となります。
気象データは、気象庁で検索をかけると
最新から過去のデータまで閲覧することが出来ます。
(気象庁:過去の気象データ検索)
今回は2019年の松山市のデータを参照して
平均外部風速 2m/s
温度差ΔT 10℃ を採用。
建設地は住宅街で
気密性能は、次世代省エネルギーで定められていた
C値 5㎝²/m²を使って
この時の換気回数(漏気量)を求めていきます。
グラフの見方は、
①:外部風速の値から垂直に線を伸ばす
②:各温度差から地域別に3つ線があるので、建設地かつ条件の温度差の線を読み取り
③:外部風速から伸ばした垂直な線と温度差の曲線と交わる点をプロット
④:③から横軸に並行して、左のグラフまで伸ばす
⑤:相当隙間面積 C値から垂直に線を伸ばす
⑥:④と⑤の交わった点をプロット
⑦:⑥の点との曲線の値を読み取る
今回例として挙げた条件を使って読み取ると
換気回数は、0.3回/h。
ということは、約3時間20分で1回(400m³)の空気が漏れ出しているということに。
この換気量(漏気量)をできるだけ減らしていくことが重要となってきます。
なぜ重要かというと自然換気量が多いと外からの新鮮な空気も入ってくるということになりますが、その分室内の汚れた空気と共にエネルギーも出ていくことに。
夏、冷房した冷たい空気や冬、暖房などで暖めた空気などが無駄に消費されるということ。
減らす方法としては、
外部の環境を変えるか、気密性能を向上させるか
の2つに分けられます。
この論文の結果からは
極論を挙げると、いらないすき間がどれだけあろう(気密性能がなくても)と無風で室内外の温度差がなければ漏気は発生しないということになります。
しかしそういった状況は、
あり得ないということは想像できると思います。
風や温度差は特に四季のある日本においては抑制することが困難で、外部の環境として策が練れるのが建物の立地条件のみとなりそうです。
その立地条件における対策において
最も有効なⅢ:市街密集地でも
漏気を0.1回/h 建物の10%以内にしようと思うと
C値は1㎝²/m²以下
最も不利なⅠ:広闊地においては
C値は0.3㎝²/m²以下
の気密性能が求められます。
※外部風速8m/s、外気温―10℃と実験上もっとも厳しい値で導き出しています。
今回のまとめとして
・自然換気による漏気を増減させる要因は
気密性能に加えて温度差、風など外部の環境も影響する。
・自然換気量が多いと、外から新鮮な空気も入ってくるが
その分、室内で冷暖房などで冷やしたり暖めた空気が出ていくのでエネルギー消費が多くなる。
・自然の力(風・温度差)は人の手によって変化させることは困難だが
気密性能は、施工次第で追求することが出来る。
・気密性能、相当隙間面積 C値が0.3㎝²/m²以下であると立地条件や外部環境の影響を受にくくなり、漏気がほとんどなくなる。
以上になります。
気密性能の追求には、セットとして換気のことを考慮しなければなりません。
室内の空気を良質に保ちつつ、エネルギーを逃がさず有効活用するには
どのくらいの気密性能が必要なのかを知るきっかけになればと思います。
あくまで今回は一つ論文を起点に話を展開させていただいたので
これからも情報収集を行い、正しい情報を発信できるように努めていきます!