アーキテクト工房 Pure
断熱は施工が重要と
常々ブログや見学会でお伝えさせていただいていますが
なぜ施工なのかを今回文章でまとめてみようと思いました。
まず断熱に基準値などの基礎知識を知っていただき
求める断熱性能がどの程度なのか
どのような施工が望ましいのかを
知っていただければと思います。
CONTENTS
断熱性能の基準を知るために一つ知っておきていただきたいのは
住宅・建築物には省エネルギーについての『地域区分』があるということです。
春夏秋冬と四季のある日本。
都道府県別に環境の差があることが知っていることかと思います。
その地域性をとらえて日本の8つの地域に区部したのが
省エネルギー基準の地域区分になります。
以下の表が47都道府県別(各市)で判別されたものになります。
ご自身がお住いの地がどこに該当するのか分かりますでしょうか。
※出典:平成25年経済産業省・国土交通省告示第1より
ちなみにこの地域区分については
令和1年11月16日に新区分が改正されました。
※上の表の旧地域区分は令和3年3月31まで適用可能になっています。
地域区分には、
気候や温度等地域の特性によって分けられたものと
日射量による地域区分によるものがあります。
前者は、地域によってのお家に必要な断熱性能を知るために
後者は、主に日射が及ぼす太陽光発電への影響などを
地域別に分かりやすく分類したものになります。
弊社がある愛媛県にて各区分を見てみると
4地区~7地区と幅広く分布していることが分かります。
4地区:久万高原町、旧別子山村
5地区:旧小田町、旧河辺町、旧肱川町
7地区:松山市、松前町、旧新居浜市、宇和島市
6地区:上記以外の地区
そして省エネルギー基準においては
地域区別ごとに断熱性能の基準値が設けられています。
【外皮平均熱貫流率(UAB)】
1地域:0.46(W /㎡・K)
2地域:0.46(W /㎡・K)
3地域:0.56(W /㎡・K)
4地域:0.75(W /㎡・K)
5地域:0.87(W /㎡・K)
6地域:0.87(W /㎡・K)
7地域:0.87(W /㎡・K)
8地域:なし
愛媛県は、4~7地区になっているので
一部例外を除いて
UAは0.87(W /㎡・K) が最低限必要となってくるということになります。
※紹介している基準値の熱貫流率U値は
あくまで建物の「性能の器」になります。
建物の方角や建てる地域を変えてもその数値には変化はありません。
建物の性能とは、周囲の環境や配置によっても大きく左右させることはイメージできるかと思います。
北海道と愛媛県では、同じ日本でも気候がまったく異なるため
同じ性能の家を建ててても
北海道の方が暖房へのエネルギーが多くかかり
冷房へのエネルギーは少なくてすみます。
地域に合った性能を見つけていくことが今後の課題になってくると思います。
地域区分と基準となる断熱性能が分かったところで
断熱材がどれだけどこに必要になってくるのかが分かる
『断熱材の厚さ早見表』というものをご紹介させていただきたいと思います。
この以下の表は
断熱材を性能値で7グループに分けて
区分別の断熱材を使用した時に
断熱性能の基準値を満たすには、
壁や天井、床などにどのくらいの厚みの断熱材が必要かを知ることができます。
上の2つの表が断熱材を性能別に区分した表になります。
そして下の表が断熱材厚みの早見表になります。
分かりやすいように一例を示してみていきたいと思います。
〇条件
・在来木造の住宅
・4~7地区
・充填断熱工法
・グラスウール10K(区分:A-1) 熱伝導率0.051~0.052
以上のような条件の場合、
屋根 240㎜(天井断熱の場合 210㎜)
壁 115㎜
床 外気に接する部分 175㎜
その他の部分 115㎜
土間床などの外周部
外気に接する部分 90㎜
その他の部分 30㎜
このように表を使うと
どの部分にどのくらいの厚さの断熱材が必要になってくるを知ることが出来ます。
※あくまで国の省エネルギー基準(熱貫流率0.87)を満たすための条件になります。
断熱材の必要最低限の厚さを知れたところで
その断熱材が施工によって性能が変わってくることをご存じでしょうか。
検索するとよく見かける図表がこちら
断熱材の施工状態と性能値(熱貫流率)との関係を表しています。
※充填断熱時かつグラスウールでの結果になります。
①良い施工状態
断熱材がしわやヨレ、隙間なく敷きつめられている施工状態。
これが本来の断熱材の性能を発揮できる状態になります。
②押し込みすぎた状態
断熱材を入れる範囲以上で著しく大きいものを無理やり押し込んだ状態。
断熱材は、多くを押し込むと性能が上がるというわけでもないことが分かります。
詰め込みすぎることで性能が約16%も下がってしまいます。
③押し込みすぎた状態(両端の場合)
②にと状況は似ていますが、この状態は端っこに無理やり
断熱材の余った部分を入れ込んでしまっている状態です。
②にと比較すると両端の断熱材が薄くなってしまっており、弱点を作ってしまっているようなものです。
その結果として、本来より性能が54%も下がってしまいます。
④すき間がある状態
断熱材が入る範囲よりサイズが小さく断熱材と柱などの間にすき間が出来てしまっている状態。
しわやヨレがなく、無理に押し込んでいるわけでは無いので
断熱材の本来の厚さを保つことはできていますが、
すき間があるということは、その部分は断熱性能が0ということになります。
図のような状態であると性能値は約33%の低下になります。
最後に
断熱性能はどこまで求めればいいのかということについての
自分なりの考え方について書かせていただきます。
国の基準を満たしてれば
快適で夏暑くなく冬寒くない家が実現できるのか?というと
YesでもありNoでもあります。
暑くなく寒くない家は、家の性能がなくても実現することはできます。
光熱費を気にせずに大量のエネルギーを使って冷暖房をすればいいからです。
しかし、そうすることで生活し始めてからの光熱費といった「ランニングコスト」が大幅にかかってしまうようになります。
そのため、どれだけ断熱性能を求めるかと考えたときに
コストの事だけを考えると、
「何年この家に住まい続けるのか」ということが重要になってくるかと思います。
建築工事費など建物が出来るまで「イニシャルコスト」と
住み始めてからのエネルギーやメンテナンスコストなどの「ランニングコスト」
二つ合わせて
「ライフサイクルコスト」や「トータルコスト」と呼ばれますが
このコストが判断基準の1つになるかと思います。
イニシャルコスト
+
一年間のランニングコスト×何年住み続けるか
=
トータルコスト
ということです。
これはコストにおいてだけの考え方になります。
さらに高性能、省エネに付加価値があるとすれば
「省エネ運動は平和運動」という
パッシブハウスジャパンの森みわ氏の言葉にもあるように
省エネルギーは住まい手の暮らしを快適にするだけでなく
資源の有効活用にも繋がっていくことで
地球環境の保全にも大きな役割を担ってくると考えられています。
自分自身がどんな家に住みたいのかをイメージすることが
求める断熱性能にも繋がってきます。
国の基準やZEH基準、HEAT20など
様々なところで断熱性能に対しての基準値が提示されていますが
正直これが正解といったものはないと思っています。
まずは
「何年間住み続けるのか」将来のことを考えていくことで
求める性能に近づいていけるのではないでしょうか。
今回最も知ってほしかったのは
断熱材の施工と性能の関係性についてです。
おおまかではありますが、
断熱材の施工状態によって断熱性能が変化するということが知っていただけたでしょうか。
どれだけいい性能の断熱材を使用したり、計算上で高い性能を示されていても
施工が悪いとお家の性能は確保できません。
断熱材と施工状態はぜひセットで考えてみてください。
一生に一度あるかの家づくり。
学びすぎるということはありません。
信頼できる方にすべて任せてしまうのも一つの家づくりの形かと思いますが、
自分が住まいたいと思う家について自らの手で見解や知識を築き上げていくのも良いのではないでしょうか。